カトレア










次の目的地に辿り着く前に、日が暮れた。
それはつまり、結局その日も野宿になるということだ。だが、リンにとってはその方がよかった。
外の空気も、優しく子守唄の様に感じられる草木の音も、遮断してしまう壁が無いからである。
生まれ育った故郷は草原の大地であり、その上の空に抱かれて育ってきたリンにとって、町というものは何処か馴染み難いものがある。
そのことを察して、ケントらもこうして時々は野宿をしてくれていたのだ。

その日は珍しく、夜中にふと目が覚めた。
「……あら」
時間帯は深夜に差し掛かり、草木の音もだいぶ寝静まっている。その中に、ぽつんと座り込む人影が見えた。
「…ラス?」
「……リンか」
ラスは、リンの方を振り返りもせずに、ただじっと空を眺めていた。
「貴方も眠れないの?」
「…いや」
元々彼は無口なので会話は弾まない。だが、彼と居るとどこか不思議と落ち着く様な気が、リンはしていた。
「今夜も星が綺麗なのね」
「…ああ」
手を伸ばすと、夜の空の星に手が届きそうな、そんな気がしてくる。
「あれと、あれを結んで、あれと、これを。…ふふ」
指を指して、楽しそうに何かを呟くリンに、ラスはなんだ、と聞いた。
「セインがね。言ってたの。自分が大事だと思った人には、指輪を渡すものなんですよ、って」
「……指輪、か」
「ちょっとロマンチックよね。ああいう風に、星を繋げたら、指輪になって降ってくるかしら、って思って」
「……」
何も言わないラスに、ちょっと夢を見過ぎなのかしら、と軽く笑ってリンは誤魔化した。気の所為か、頬が少し熱い気がした。
「…手を出せ」
「え?」
「いいから」
ラスに言われたとおり、手を差し出すと、彼は何かをきゅ、と指に巻き付けた。
「……ラス、これ」
「……今は、これぐらいのことしかできんが」
それは、指輪だった。
柔らかな、一枚の葉っぱで結ばれた、可愛らしい指輪。
「ありがとう、ラス」
「……いや」
ラスは顔を背け、手を離した。だが、今度は逆にリンがラスの手を握る。そしてそのまま、二人の手を夜空に高く翳した。
「私、こんな指輪がいいわ。銀や石で出来た指輪より、ずっと好きよ」
枯れちゃうのが残念だけどね、と笑う。その顔はとても嬉しそうで、ラスも密かに喜んでいた。
「お前は、何よりも草原が似合っている」
「そうかしら。きっと、それはラスも同じだわ」
「草原と同じ。お前は、美しい」
「…ラス……」
珍しく続けられた、偏りのない言葉に、リンは優しいものを感じた。それは、何よりも草原に似ていて、空の様に澄み切っていて―――



夜空に掲げられた二人の手は、星空と共にきらきらと輝いているように見えた。





End


初めて書いたラスリンです。ラスは思わぬところでさらっと凄い言葉を言いそう...
草の指輪って、子供っぽいかもしれないけどこの二人には自然的でお似合いかなーと。
この二人は爽やかな草原の中で仲を深めてほしい! 2013,3,31



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